「障害者雇用」という言葉はよく耳にするものの、実際にどんな環境で、どんなふうに働くことになるのかというのは、あまり具体的に知られていないかもしれません。
私は精神障害者として、特例子会社で働いた経験があります。5年ほど在籍していました。
障害者雇用は一言で語れるものではなく、企業や部署、支援体制によって、感じ方が大きく変わる働き方だと感じています。

今回の記事では、障害者雇用という制度の基本を整理しつつ、実際の現場で見てきたこと・感じたことを交え、障害者雇用という選択肢をもう少し立体的に捉えていきます。
障害者雇用とは?制度としての前提を整理する

障害者雇用とは、障害のある方が能力を発揮し自立した生活を送れるよう、企業が障害の特性に配慮しながら雇用する制度です。
日本では「障害者雇用促進法※1」によって、一定規模以上の企業には障害者を一定割合以上雇用する義務(法定雇用率)が定められています。さらに2024年からは、事業者による合理的配慮の提供が義務化※2されています。
この制度の目的は、障害のある人が能力を活かしつつ安定して働き続けられるよう、支援しながら社会参加を促進することです。
※1 障害者雇用促進法をはじめとする制度の考え方や背景については、厚生労働省の公式ページで整理されています。
▶ 障害者雇用対策|厚生労働省ホームページ
※2 とくに雇用における合理的配慮の考え方については、厚生労働省の公式ページで整理されています。
▶ 雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務 | 厚生労働省ホームページ
一般雇用との大きな違いは、採用の段階から「障害があること」を前提としている点です。
こうした点を、会社側も織り込んだうえで雇用契約が結ばれます。
そのため障害者雇用は、「無理しないで働けそう」「安心して長く続けられそう」といったように、働き方のイメージがしやすいです。
一方で、配慮がある=必ずしも働きやすい「というわけではない」面もあるのが事実で、もう少し丁寧に見ていく必要があります。

このあと、制度だけでは見えにくい実際の現場の違いや、向き・不向きについても触れていきます。
障害者雇用の現場は全て同じ「ではない」
障害者雇用は、法律で定められた制度です。しかし、実際の働きやすさについては、企業・部署・上司などの背景によって大きく異なると感じてきました。
たとえば、私が精神障害者として在籍していたのは、製造業を親会社に持つ特例子会社でした。同じ「特例子会社」という組織形態であっても、会社や業種によって雰囲気はかなり異なると感じます。

たとえば、親会社の業種が製造業なのか、IT関連なのか、サービス業なのか、といった組織的背景の違いによっても、仕事の進め方や価値観、職場の雰囲気は変わりやすいように思います。
私が勤めていた製造業の特例子会社を例に出すと、
といった独自の特徴を感じる場面がありました。
「障害者雇用だから安心」「特例子会社だから大丈夫」と一括りにはできず、実態にはかなり幅があるというのが、現場で見てきた正直な感想です。
特例子会社で見てきた様々な働き方と状態
私が特例子会社で働いているあいだ、同じ「精神障害」というカテゴリーの中でも、本当にさまざまな状態・働き方の人がいることを間近で見てきました。

ひと言で「精神障害者の雇用」と言っても、実際の現場ではとても一括りにはできないと感じました。
メンタルの状態や苦手な対象は当事者によって異なる
精神障害を持つ社員には、こんな方々がいました。

同じ職場内の精神障害者同士でも、「何が苦手か」「どんなサポートが必要か」というのは、本当にバラバラだったのです。
仕事の内容や環境によっても合う・合わないは変わる
働きやすさに関しては、障害の種類や診断名というよりも環境要因に大きく左右されると感じる部分も多くありました。
例えば、配属された部署・担当する業務内容・チームか個人作業か・上司や周囲の関わり方が適切であるか といった、外的要因による影響を受けやすいと感じました。
同じ会社の中であっても、

ここなら落ち着いて働ける!

ここではどうしても消耗してしまう…
といった違いが生まれることも、決して珍しくありません。
部署による違いの一例
私が働いていた特例子会社は製造業で、部署は大きく分けて「管理部門」と「製造部門」に分かれていました。私自身は、管理部門に所属していました。
管理部門では、それなりの実務スキルや対応力が求められ、以前の職場よりもスキルアップが必要だと感じる環境でした。
一方で製造部門では、会社の規模や採用人数に対して、業務の切り出しが追いついておらず、単調な作業が続いてしまうケースも見られました。


同じ「特例子会社」という枠の中でも、部署や業務設計によって、働きやすさや達成感には、大きな差が生まれやすいのが実際だと感じていました。
向き・不向きは能力の問題とは別の部分
特例子会社では、部署によっては「できる人/できない人」と単純に評価されがちでしたが、実際はそうではないと感じています。
その人に合った環境・仕事にマッチできたかどうかで、発揮できる能力は大きく変わってきます。
裏を返せば、合わない環境だと、本来持っている能力がまったく発揮されないこともありえます。
特例子会社は安心だが万能ではない
特例子会社は配慮を前提とした環境が整えられているぶん、安心して働きやすい側面があります。
一方で、

配慮や規則が細かく決められていて窮屈…

やりがいや達成感があんまりないかも…
このように感じる方がいるのも事実だと思います。

特例子会社だから良い/悪いという単純なものではなく、職場環境・仕事内容と、本人の状態・価値観がマッチするかどうかが何より大切だと感じました。
採用前実習|職場環境を感じ取れる貴重なチャンス

精神障害を持つ方が障害者枠で採用される場合、採用前実習が設けられることが多いという特徴があります。
実習の期間や内容は企業によって異なり、数日〜数週間程度と幅があります。
この実習は、企業が応募者を評価する場であると同時に、応募者側が「自分に合う環境かどうか」を確認するための期間でもあります。いきなり本採用に進む前に段階を踏めるので、お互いに確認することができます。

ミスマッチを防ぐためにも、採用前実習中は素直な気持ちで自分の本心と向き合って頂きたいなと思います。
障害者雇用が向いている人・向いていない人


こちらの章では私自身の経験と、特例子会社という環境で多くの人を見てきたなかで感じたことを書いていきたいと思います。
障害者雇用が向いていると感じるケース
障害者雇用の大きな特長は、「無理をしない前提で働く」ことが、制度上きちんと認められている点だと思います。

特に、体調が不安定な時期や働くリズムを作りたい段階では、大きな安心材料になると感じています。
障害者雇用が向いていないと感じるケース
一方で、こんな場合はミスマッチが起きやすいと感じます。
また、企業や部署によって、業務内容が限定されすぎてしまう・達成感を得にくい・仕事量にばらつきが出やすいといったケースもあります。

障害者雇用だから、全ての条件が揃っているという訳ではない点について、知っておいてほしいと思います。
障害者採用での働き方がマッチするかは本人次第

ここで伝えたいことは、障害者雇用が良い/悪い・一般採用が良い/悪い といった、単純な二択の話ではないということです。
同じ「障害者雇用」でも、
などの要素によって、感じ方は本当に変わってきます。

だからこそ、障害者雇用が向いているかどうかについては、実際に環境を見て、体感してから判断しても良いと私は思っています!
障害者雇用も「選択肢の一つ」として考える

ここまでで書いてきたように、障害者雇用には安心して働ける仕組みがある一方で、企業や部署による違いや仕事の幅の限界といった現実もあります。

精神障害を持つ当事者が働き方を選ぶときは、障害者雇用だけに絞って考えるより、数ある選択肢の一つとして捉えることが大切だと感じています。
体調やライフステージによって、
配慮のある環境が必要な時期 ▶ 少しずつチャレンジしたい時期 ▶ 働き方そのものを見直したい時期
といったように、状況は変わっていきます。その都度、自分の状態 × 環境 × 制度 を見ながら選び直していければいいと思います。
最初から正解を選ぶ必要はなく、迷いながら途中で立ち止まっても大丈夫ということです。私自身も、その時々の状態や環境に合わせ、何度も選び直してきました。
私にとって、障害者雇用での働き方は一つの通過点でした。助けになった時期もあり、合わなくなった時期もありました。
でも、全ては無駄ではなく今に繋がっていると感じています。
次の記事では、自身の経験をもとに働き方を4つに分類し、それぞれの特徴についての考察を書いています。
▶ 精神障害があっても選べる働き方|いま考えたい4つの選択肢


